「原因を探って、有効な打ち手を講じる」と言葉で言うのは簡単ですが、実際に大変な場面に遭遇すると、そういった思考回路が回らなくなるというのが、現実の様です。特に今回のような震災に遭遇した場合「今までに経験のない事なので、見た目の被害に目を奪われて客観的な判断が出来なくなる」という事が一般的なようです。
今回は、私が実際に福島の震災で復旧工事を行った際の実例として、原因を探って打ち手を講じて来た内容を、簡単にご紹介させて頂きます。(施主様から、ブログへの公開を了解頂きました)
被害に遭われた方は判断に迷われても仕方ないのですが、建築業者やリフォーム業者は、それでは役割を果たした事になりません。私が常に行っている考え方のステップは、次の通りです。
①「なぜ、沈下したのか」の理由を探る。
②仮説でもいいので答えを持って沈下修正をし、その仮説検証を行う。
③検証した原因に手を打つ。
④その後の経過を確認し、必要な場合には再度、対策を講じる。
簡単に言えば以上の通りですが、③に関しては、施主様の意向が反映されなければなりません。予算制約もありますが、私が最も重視しているのは「これから何年位、使用される家なのか」という点です。これによって、どこまで手を掛けて、費用も掛けて直すのかが決まります。その方法を、私達建築・リフォーム業者が提示する訳です。
それでは、私が福島県須賀川市で遭遇して解決して来た具体的な事例を一つ、ご紹介させて頂きます。
次の写真をご覧下さい。この写真だけでは分かりにくいかも知れませんが一番軽いはずのサンルームが17cmも沈んで、玄関付近で転びそうになる位、廊下が傾いてしまいました。
下の写真の基礎と土台の隙間分だけジャッキアップして、床が平らになりました。
床下から外を見ると、いかに大きく沈下したのかが分かります。
正面から見たら、サンルームが左向きにこけてる様子が分かります。
ジャッキアップする過程において、家の状態から、サンルーム付近だけ沈下するという原因は見当たりませんでした。という事で、屋外に絞って原因を調べてみると、水捌けに関わる二つの原因が見えて来ました。
(1)排水桝からの水漏れ(コーキングの剥がれ)
ゴムパッキンでシッカリとシール処理するのではなく、コーキング処理をしていたようですが、その後の劣化でコーキングが剥がれて、枡から水が漏れる状態になっていました。東日本大震災のようなプレート型地震では、水が漏れ続けると軟弱地盤(最悪の場合は液状化)になり、建物が沈下しやすくなります。
これについては、次の様に対策を講じました。全ての枡について、ゴムパッキンのシール処理に変わりました。
(2)庭が逆勾配になっている。
通常は、建物から排水溝に向かって勾配を取り、排水されるようにするのですが、アプローチに段差を設けたため、玄関に向かって下がる逆勾配になっていました。これが、その証拠写真で、玄関付近に雨水が溜まるようになっていました。(施主様も、そうなっていたとお話しされてました)
庭土を掘り返してやり直すのは大変な費用が掛かってしまいますので、このケースでは、暗渠排水を作る事で、雨水を家から遠ざけるようにしました。下の写真の砕石の下に、排水用の穴の開いた暗渠パイプを這わせています。
この工事をした後、施主様から「雨水が面白いように砕石に吸われていってる」というお話しを聞いております。
その結果、工事から約5年が経過した今でも、再沈下する事無く、安心して生活されているそうです。それから、震災前にはいつも湿気ていたサンルーム下の土が乾いて来て、今ではアリジゴクが巣を作っているそうです。(土が乾燥している証拠)
これからも、機会を見ながら訪問して、再沈下していないかのチェックを続けていく考えです。
これは一つの事例で、東日本大震災のプレート型地震(長い時間の揺れで、液状化現象が起きやすくなる)と、熊本大震災の直下型地震(短時間での大きな揺れで、建物自体が倒壊してしまう)とでは、被害状況も今後の地震懸念も異なって来ます。
しかしながら、考え方のプロセスは同じ訳で、個別のケースで具体的な内容を吟味した上で、対応に当たっていきたいと考えています。