東南アジアや南米の国々に行くと、日本企業の大きな工場や看板を目にする方が多いと思います。日本の大手企業が海外進出を本格化してから30年以上経過しますが、昨日、アメリカ合衆国次期大統領のトランプ氏が「トヨタがメキシコに新工場を建設して米国向けに輸出するなら、35%の関税を掛ける。アメリカ向けの車を作るなら、アメリカ国内に工場を作るべきだ」と、トヨタの海外戦略に対する警告を発しました。これによって、日本の自動車業界全体に激震が走っていると報道されています。
ここで冷静に考えてほしいのですが、日本企業の海外戦略とトランプ氏の主張の、どちらが正論なんでしょうか?私は明確に、トランプ氏へ軍配を上げます。
その理由は、これまでの日本企業の海外戦略は、その実態を見ていくと、実は現代版植民地主義であり、マルクスが見ていたような産業革命期の搾取そのものだと考えられるからです。
トヨタの社長も、メキシコ進出の理由を「人件費が安いから」と言ってます。もし本当に「メキシコのために」と思っているなら、後になって人件費が上がってもメキシコに止まって生産し続けるはずですが、人件費が安い国をめがけて工場をシフトし続けて来たこれまでの動きを見ていると、建前論とは全く別で、単に自社が儲けることしか考えていないのでは?と思わざるを得ません。
メキシコで生産している自動車の91%がアメリカ向けで、しかも関税がゼロなんだそうです。要するに、アメリカ人は人件費が高いので、人件費の安いメキシコで生産して生産コストを削減し、自社の利幅を大きくしようというのが、海外戦略というものの実態です。アメリカ人から受け取った売上代金の大部分を、メキシコに落としている訳です。トランプ氏は、この事を問題視しているんだと思います。だから関税を上げると主張している訳で、これは全くの正論だと思います。
実はこの構図、住宅・リフォーム業界でも全く同じなんです。経済の高度成長期以降、住宅会社が利幅を稼ぐ目的で、建材の仕入れを国内から海外にシフトしたため、国内の林業を始めとした建材業界が空洞化してしまいました。要するに、住宅会社に払った工事代金の大部分が、国内ではなく海外に落ちるようになった訳です。
アベノミクスによって、大手企業には過去最大の利益を上げている会社が増えています。しかし、これらの会社が日本国内ではなく海外にお金を落とすため、国内産業は空洞化し続け、逆に日本企業を誘致した国の経済が急成長しています。しかし、進出先の国の人件費が高騰して来ると、今度は別のもっと人件費の安い国にシフトしていってます。
これが海外戦略であり、企業の果たすべき役割だと胸を張って言えるのでしょうか?
私の出来る事は、自分の手の届く範囲でしかないのですが、地域で発生する仕事は、地域内でお金を回す=地域内で生産している資材を出来る限り活用する、という方策を徹底する事です。
日本経済全体が再生するには、大手企業が「国内で販売するものは部品生産から組立まで国内で生産し、海外で売るものも現地で一貫した生産の流れを作り上げる」という当たり前の事をやりさえすれば、どこの国の経済も良くなると思うのです。そういう事を前提にした支援策こそ、本当の意味での海外戦略ではないでしょうか?
日本の国技である相撲でも、横綱には品格が求められます。単に勝てばいい訳ではありません。張り手やかち上げといった喧嘩相撲で勝っても意味が無く、出来るだけ相手の立ち会いを一度は受け、その上で相手を打ち負かす事が横綱相撲と呼ばれて尊敬されます。
日本の大手企業にも同様に、単に儲ければいい訳ではなく、地域に経済循環を生む流れを創り出す、という企業が本来果たすべき役割が求められているんだと思います。トランプ次期大統領の主張は、その事をアメリカ国内で実現しようとしているように感じます。そうやって見ていくと、これからのアメリカの動向が楽しみになって来ます。