私の知人から「地震によって家が沈下した時、ジャッキアップした後の再沈下対策はどうするんですか?」という質問がありましたので、具体的な実例で答えたいと思います。ただし、再沈下対策に一律の方法は無く、被害の状況と、施主様がその後どれ位、住まれる家なのか(後継者がいるのかどうか)、によって対応方法は全く異なって来ます。
今回は「家は全壊の罹災」「息子さんやお孫さんまで長く住む予定の家」という前提で対応した事例(東日本大震災の、福島県須賀川市での被害)として、ご紹介させて頂きます。家の下で地割れを起こし、基礎が20cm以上も開いてしまったお宅です。(掲載に関しては、施主様ご了解済み)
このお宅は、震災の一年前に大規模な耐震リフォーム工事(私がいた会社が請け負った工事ではありません)を行ってましたが、軟弱地盤の上で、建物の耐震性を高めただけの工事でしたので、地盤が動いた地震によって家は大きな被害(全壊の罹災判定)を受けてしまいました。この時、重要な事は「家のどの部分で、どういう問題があったのか」を探る事です。
私達が探った結果「軟弱地盤なのは西側だけで、西側半分の地盤が流れた事によって家が離れていった」という事で発生した被害でした。その時の調査資料が、次の写真です。
被害の状態と対策の方向性を要約すると、以下の通りです。
①家は西側に向けて開いており、床下地面の亀裂も東西に裂けている。
②東側は傾きもほとんどなく、安定した地盤だと判断出来る。
③最初にジャッキアップして家を水平に戻した上で、再沈下対策を講じる。
この土地はそもそも、裏手からの湧水が家の下に水道(みずみち)を作っていた事が軟弱地盤になった原因だと判断しましたが、それについての対策は、別の機会に情報アップ致します。
以下「家の沈下修正」と「再沈下防止」に分けて対応方法を下記します。
・家の沈下修正
(1)沈下修正を容易に、かつ完全に行うため、工事に先立って屋根の瓦降ろしを行い、屋根を軽くしてからジャッキアップする。
<写真は掲載しませんでしたが、2階の棟瓦が落ちて、大きな被害が出てましたので、その屋根工事も必要な状態でした。屋根工事は、ジャッキアップが終わってから行いました。>
上の写真のような状態(2階屋根の瓦を卸して頭を軽く)にしてから、ジャッキアップを行いました。
(2)ジャッキアップによる不陸調整工事
ジャッキアップによって、傾いた家を水平にします。これをすれば、動きにくくなっていたサッシがスムーズに動くようになります。傾いた家の水平・垂直をキッチリ取り直す事は、人の体で言えば『整体』に当たります。傾いたままだと偏荷重を受ける事にもなりますので、ジャッキアップは家を長く持たせるためにも、重要な工事です。
・再沈下防止
(1)ジャッキアップ後は、東側の固い地盤から西側の沈下した部分まで、土台に鉄骨を入れます。これは、再沈下対策であると共に、仮に再沈下した際にも、簡単にジャッキアップして直しやすくするための対応です。
もう少し詳しく解説すれば、東側の固い地盤で支える事が出来ますので、西側の地盤が少し位、沈下しても、家自体は水平を保つ事が出来る訳です。因みにこの原理は、傾斜地の沈下対策でも応用出来る考えです。
(2)軟弱地盤では、H鋼の杭打ちをすると免震効果を発揮(固い地盤への杭打ちは、共振してしまうので逆効果)します。ただし岩盤まで完全に到達させる事が必須の前提になりますので、1メートルずつ真っ直ぐに落ち込みながら溶接していきます。そして実際に打ち込み、反力で跳ね返されるまで打ち込む事が効果を発揮するための前提条件になります。(杭打ちする機械は、他にもあります)
最初に杭打ちする深さを決める訳ではなく、溶接しながら岩盤に到達するまで打ち込んでいく事がポイントです。
打ち込んだ深さをチェックしながら進めていきます。実際にやってみると分かりますが、同じ敷地内でも、場所によって岩盤の深さは一定ではありません。
これで、杭打ち完了です。H鋼の頭の部分が潰れているのがお分かり頂けますか?ここまでやらないと、効果は出ません。余談ですが、地下水位よりも下では酸素が無い状態ですので、鉄骨が錆びる事はありません。
このH鋼に鉄筋を溶接して、コンクリのベタ基礎と一体化させます。
(3)西側の軟弱地盤を面全体で受けるベタ基礎にし、H鋼と共に支える仕掛けにして、再沈下防止が完了です。
家の外から土台部分のH鋼が見えると見栄えが良くないので、板金で水切りを作って隠しました。
以上が、ここのお宅での、傾き直し(不陸調整)と再沈下防止の内容です。工事後にも数多くの余震が発生していますが、同じ震度でも以前のような大きな揺れは感じなくなったという声を頂けてますし、昨年までの毎年の再沈下チェックでも、沈下したという数字は計測されていません。
震災によって家が傾いてしまうという事は、通常ではないイレギュラーなケースに当たりますので、こういった実証データで検証していく事が最も有効なノウハウの蓄積になるのではないかと考えています。